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川北町子ども会では、10月31日に、ハロウィン ・パーティーをする事が決定しました。
子供たちにとっては丁度良い事に、今年のハロウィンは週末になります。だから、翌朝、学校へ登校する事を気にしなくても良いのです。
子供達それぞれが、思い思いの衣装に身を包み、家々の戸口を巡って、言うのです。
「Trick or Treat?!」
つまり、
「お菓子をくれないと、いたずらしちゃうぞ?!」
です。
全員、大喜びでした。
恭平も、一ヶ月も前から、衣装を準備していました。狼男が良いか、それとも、吸血鬼かと色々悩んだのですが、或る日、雑誌を見て、
「これだ?!」
と閃きました。インスピレーションを得たと言う訳です。
恭平は、まず、壊れたモップの柄を物置から引っ張り出して来ました。留め金が壊れてしまっているので、そのままでは、ただの木の棒になっている物です。それを綺麗に掃除した後、薄めのダンボールを三日月の形に切り抜きました。差し渡し、50センチは有るでしょうか。
ダンボール紙に、丁寧に銀紙のホイルを巻いて、表面を平らにならします。銀色の曲がった刃が出来ました。あとは、モップの柄に、ガムテープで刃を固定して、また、上から、銀紙を張り付けます。ちょっとは、継ぎ目に絵の具も塗りましょうか。色は、黒と銀色を交互に塗った方が良いかも知れません。
立派な鎌が出来上がりました。
次に、雪国に住んでいる伯父さんから贈られた、真っ黒なフード付きコートを、マントに仕立てる為に、多少お母さんは文句を言いましたが、襟元に黒く長いリボンをあしらいました。これを首の所から余裕を持って結んで、中も黒い服を着ます。セーターとジーンズ。それとも、フリースのトレーナー。
最後に、鏡の前に立って、鎌をその手に掴みます。
”死神”の完成です。
「うふふふ。よしよし。」
自分の姿に、恭平は、含み笑いをしました。
「その鎌を、振り回しちゃ、いかんぞ、恭平。」
お父さんが忠告しました。
「危ないからな。」
「恭平。ハロウィンが済んだら、解っているわね。」
お母さんが念を押しました。
「うん、島影病院に行って来るよ。ちゃんと、先生に、見せるから。」
去年の暮れから時折、熱を出す恭平は、十一月になったら、病院で検査を受ける事になっているのでした。両親は、足の速い恭平が、ひょっとしたら、逃げるのでは無いかと心配しているのでした。
その晩、恭平は枕元に衣装を置いて、眠るのでした。
いよいよ。当日です。今年の”ハロウィン”は日曜日になりました。
夕方近く、急いで集合地点に駆けつけると、住宅街の公園には、三々五々、子供達が集まり始めています。います、います。半魚人も、妖精も、幽霊も、・・・狼男も。
こちらを向いた顔に、何人も知った顔が混じっています。その代わり、相当今日はいつもの彼等彼女等とは違いますが。
「あ、宏、すげ-、お前、バットマンじゃないかよ。」
「恭平こそ、何だよ、それ、魔法使い?!」
「がく。違うよ、死神・・・。」
反論しようとした時、滑り台の上から、声が響いて来ました。
「お集まりの皆さん。」
ハロウィン推進委員長は、箒を持った、長い尖がり帽子の魔女でした。動くたびに、長い、木の実やきらきらする石をつなげて作ったネックレスが揺れます。
「今日は、この一年、待ちに待ったハロウィンです。我々、黄昏れの子供達は、せいぜい、生きた人間達から、宝物を、お菓子をふんだくってやろうでは、有りませんか!」
公園中から、一斉に拍手が湧き起こりました。みんな、笑っています。
「では、班毎に分かれて、数人で行動して下さい。」
係りのお兄さんが、声をかけています。恭平も自分の班の班長のもとに行こうとした時、
(多分、あそこにいる、包帯グルグルのミイラだな。聖書を抱えているし。)
班長は、教会の神父さんの息子さんなのです。
目の前を、青白い鳥の羽が通って行きました。見ると、頭に長い鳥の羽をさして、デニムのジャンパーを羽織った子供が通って行きます。思わず、
「へえ。インディアン?」
すると、いきなり、その子供が、振り返って、じろり、と、恭平を眺めました。その顔には、何本か目元から頬にかけて、赤や青の太い線が描かれていました。恭平がびっくりして、何も言えないでいると、その子は、
「ネイティブ・アメリカンって言えよ。」
とくま取りをした顔で言って、そのまま、後も見ないで立ち去って行きました。
呆然とした恭平は、やがて、はっと我に帰りました。すると。
どうした事でしょう。公園内から人々は、ほとんどいなくなっているでは有りませんか。
「あれ~?置いていかれちまったかなあ。」
困り果てた恭平が、ふと心細くなっていると、その手をつんつんと、引く者が有ります。
「え?」
その方を見ると、オレンジ色の猫の顔が、恭平を見上げていました。二本の尖った耳が突き出ています。目は水色で、細いのでした。
あれ?おかしいな?猫って、夜は瞳が丸くなるはずだぞ。とまで、考えて、恭平は笑いました。勿論、仮装に決まっています。今夜は、ハロウィンなのですから。
「ねえ。一緒に行こう。」
鈴を振るような、可愛い声が、彼を呼びました。猫の頭の下から、正真正銘の子供の顔が、無邪気な瞳を輝かせて、恭平を見つめているのでした。
「う、うん。」
何だか、その子のお兄さんになったような気持ちで、恭平はうなずきました。安心させる為に、手をつないであげます。
「よし。じゃ、行こうか。」
オレンジ色のフード付きジャンパーを着た子供は、嬉しそうにうなずくのでした。
二人は、一番目の目標である、公園の入り口にある家へ向かいました。恭平にとって、その子供は、初めて見る、知らない子供でした。
(新しく出来た、住宅地の子供かな。随分変わったって、お母さんも言っていたから。)
ルートは、もう、決まっているのです。子供達の行くべき家には、事前にすっかり連絡が行っているので、誰も慌てる必要は無いのでした。
ドアフォンを押します。どきどきして来ました。すると、ドアが開いて、中から黄金色の光が二人の方へとこぼれて来るのでした。温かい匂いも漂って来ます。
「と、Trick or Treat!!」
思い切って、恭平は言いました。少し遅れて、オレンジ色の子も、同じ言葉を言うのでした。
「あらあら。はい。」
持っていた籠やリュックに、お菓子を入れてもらいます。作りたてのいい匂いがするのです。
にこにこと見送られながら、二人は次の目的地へと向かうのです。意気揚揚と。
そうして、何時間が過ぎ、幾つの家を回った事でしょう。二人の籠もリュックも一杯です。煎餅やチョコレートやクッキーやタルトにパイ、で。
「はい。」
気が付くと、オレンジ色の子が、蒸しケーキを恭平に差し出していました。
「くれるの?有難う。」
お腹が空いていた恭平は、あっという間に、平らげるのでした。なかには、ママレード・ジャムが入っていました。もぐもぐ言っている恭平に、
「あのね。今日は、とっても、楽しかった。」
子供は言うのです。
「うん。僕も。」
恭平は言いました。
「僕も、とっても、楽しかった。」
やがて、街のどこかで、サイレンが鳴り響きました。ハロウィンの終わりです。
子供達は、好きに家に帰って、自由解散で良いのです。
「送るよ。」
恭平は言いました。子供はかぶりをふりました。
「迎えが来ているから、良いの。」
見ると、本当に、車道に、大きな乗用車が、街灯に照らされて停まっています。子供は、一つ恭平に手を振ると、元気良く立ち去って行きました。
恭平は、籠を持ち直すと、夜道を、他の子供達に入り混じって、家に帰るのでした。
来年も、こんなハロウィンが過ごせると良いな、くたくたに疲れた彼は、でも、そう考えているのでした。
次の日。両親は、恭平を病院に連れて行って、検査を受けさせました。
「先生とお話が有りますから、ロビーで本でも読んでいらっしゃい。」
ロビーで、戦隊物の写真集を見つけた恭平は、お父さんとお母さんが、お医者さんとどんな話をしているか、全く知りませんでした。
三人は、診察室で、こんな話をしていたのです。
「お父さん。お母さん。喜んで下さい。」
「どうしたのですか、先生?!」
「もしや、息子の、恭平の身に何か・・・。」
心配そうな両親にお医者さんは、レントゲン写真を指し示しました。恭平の身体を写した物でした。
「この通り、恭平君の肺からは、完全にガン細胞の影が薄れ始めています。」
思わず、両親は、座っていた椅子から立ち上がりました。
「本当ですか、先生?!」
「本当です。」
お医者様は、喜ばしげにうなずきました。
ロビーでおとなしく、本を開いて読んでいた恭平は、お父さんと一緒に来たらしい子供が、童話の本を読んで貰うのを、ふと気に留めました。
「お姫様、可愛いね。パパ。・・・妖精って本当にいるの?」
子供の質問に、お父さんはすぐさま答えました。事もなげに。
「いるよ。」
* The End *
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