忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

10月の童話 =Happy Halloween=


 川北町子ども会では、10月31日に、ハロウィン ・パーティーをする事が決定しました。
 子供たちにとっては丁度良い事に、今年のハロウィンは週末になります。だから、翌朝、学校へ登校する事を気にしなくても良いのです。

 子供達それぞれが、思い思いの衣装に身を包み、家々の戸口を巡って、言うのです。

「Trick or Treat?!」

 つまり、

「お菓子をくれないと、いたずらしちゃうぞ?!」

 です。

 全員、大喜びでした。

 恭平も、一ヶ月も前から、衣装を準備していました。狼男が良いか、それとも、吸血鬼かと色々悩んだのですが、或る日、雑誌を見て、

「これだ?!」

 と閃きました。インスピレーションを得たと言う訳です。

 恭平は、まず、壊れたモップの柄を物置から引っ張り出して来ました。留め金が壊れてしまっているので、そのままでは、ただの木の棒になっている物です。それを綺麗に掃除した後、薄めのダンボールを三日月の形に切り抜きました。差し渡し、50センチは有るでしょうか。

 ダンボール紙に、丁寧に銀紙のホイルを巻いて、表面を平らにならします。銀色の曲がった刃が出来ました。あとは、モップの柄に、ガムテープで刃を固定して、また、上から、銀紙を張り付けます。ちょっとは、継ぎ目に絵の具も塗りましょうか。色は、黒と銀色を交互に塗った方が良いかも知れません。

 立派な鎌が出来上がりました。

 次に、雪国に住んでいる伯父さんから贈られた、真っ黒なフード付きコートを、マントに仕立てる為に、多少お母さんは文句を言いましたが、襟元に黒く長いリボンをあしらいました。これを首の所から余裕を持って結んで、中も黒い服を着ます。セーターとジーンズ。それとも、フリースのトレーナー。

 最後に、鏡の前に立って、鎌をその手に掴みます。

 ”死神”の完成です。

「うふふふ。よしよし。」

 自分の姿に、恭平は、含み笑いをしました。

「その鎌を、振り回しちゃ、いかんぞ、恭平。」

 お父さんが忠告しました。

「危ないからな。」

「恭平。ハロウィンが済んだら、解っているわね。」

 お母さんが念を押しました。

「うん、島影病院に行って来るよ。ちゃんと、先生に、見せるから。」

 去年の暮れから時折、熱を出す恭平は、十一月になったら、病院で検査を受ける事になっているのでした。両親は、足の速い恭平が、ひょっとしたら、逃げるのでは無いかと心配しているのでした。

 その晩、恭平は枕元に衣装を置いて、眠るのでした。

 いよいよ。当日です。今年の”ハロウィン”は日曜日になりました。

 夕方近く、急いで集合地点に駆けつけると、住宅街の公園には、三々五々、子供達が集まり始めています。います、います。半魚人も、妖精も、幽霊も、・・・狼男も。

 こちらを向いた顔に、何人も知った顔が混じっています。その代わり、相当今日はいつもの彼等彼女等とは違いますが。

「あ、宏、すげ-、お前、バットマンじゃないかよ。」

「恭平こそ、何だよ、それ、魔法使い?!」

「がく。違うよ、死神・・・。」

 反論しようとした時、滑り台の上から、声が響いて来ました。

「お集まりの皆さん。」

 ハロウィン推進委員長は、箒を持った、長い尖がり帽子の魔女でした。動くたびに、長い、木の実やきらきらする石をつなげて作ったネックレスが揺れます。

「今日は、この一年、待ちに待ったハロウィンです。我々、黄昏れの子供達は、せいぜい、生きた人間達から、宝物を、お菓子をふんだくってやろうでは、有りませんか!」

 公園中から、一斉に拍手が湧き起こりました。みんな、笑っています。

「では、班毎に分かれて、数人で行動して下さい。」

 係りのお兄さんが、声をかけています。恭平も自分の班の班長のもとに行こうとした時、

(多分、あそこにいる、包帯グルグルのミイラだな。聖書を抱えているし。)

 班長は、教会の神父さんの息子さんなのです。

 目の前を、青白い鳥の羽が通って行きました。見ると、頭に長い鳥の羽をさして、デニムのジャンパーを羽織った子供が通って行きます。思わず、

「へえ。インディアン?」

 すると、いきなり、その子供が、振り返って、じろり、と、恭平を眺めました。その顔には、何本か目元から頬にかけて、赤や青の太い線が描かれていました。恭平がびっくりして、何も言えないでいると、その子は、

「ネイティブ・アメリカンって言えよ。」

 とくま取りをした顔で言って、そのまま、後も見ないで立ち去って行きました。

 呆然とした恭平は、やがて、はっと我に帰りました。すると。

 どうした事でしょう。公園内から人々は、ほとんどいなくなっているでは有りませんか。

「あれ~?置いていかれちまったかなあ。」

 困り果てた恭平が、ふと心細くなっていると、その手をつんつんと、引く者が有ります。

「え?」

 その方を見ると、オレンジ色の猫の顔が、恭平を見上げていました。二本の尖った耳が突き出ています。目は水色で、細いのでした。

 あれ?おかしいな?猫って、夜は瞳が丸くなるはずだぞ。とまで、考えて、恭平は笑いました。勿論、仮装に決まっています。今夜は、ハロウィンなのですから。

「ねえ。一緒に行こう。」

 鈴を振るような、可愛い声が、彼を呼びました。猫の頭の下から、正真正銘の子供の顔が、無邪気な瞳を輝かせて、恭平を見つめているのでした。

「う、うん。」

 何だか、その子のお兄さんになったような気持ちで、恭平はうなずきました。安心させる為に、手をつないであげます。

「よし。じゃ、行こうか。」

 オレンジ色のフード付きジャンパーを着た子供は、嬉しそうにうなずくのでした。

 二人は、一番目の目標である、公園の入り口にある家へ向かいました。恭平にとって、その子供は、初めて見る、知らない子供でした。

(新しく出来た、住宅地の子供かな。随分変わったって、お母さんも言っていたから。)

 ルートは、もう、決まっているのです。子供達の行くべき家には、事前にすっかり連絡が行っているので、誰も慌てる必要は無いのでした。

 ドアフォンを押します。どきどきして来ました。すると、ドアが開いて、中から黄金色の光が二人の方へとこぼれて来るのでした。温かい匂いも漂って来ます。

「と、Trick or Treat!!」

 思い切って、恭平は言いました。少し遅れて、オレンジ色の子も、同じ言葉を言うのでした。

「あらあら。はい。」

 持っていた籠やリュックに、お菓子を入れてもらいます。作りたてのいい匂いがするのです。

 にこにこと見送られながら、二人は次の目的地へと向かうのです。意気揚揚と。

 そうして、何時間が過ぎ、幾つの家を回った事でしょう。二人の籠もリュックも一杯です。煎餅やチョコレートやクッキーやタルトにパイ、で。

「はい。」

 気が付くと、オレンジ色の子が、蒸しケーキを恭平に差し出していました。

「くれるの?有難う。」

 お腹が空いていた恭平は、あっという間に、平らげるのでした。なかには、ママレード・ジャムが入っていました。もぐもぐ言っている恭平に、

「あのね。今日は、とっても、楽しかった。」

 子供は言うのです。

「うん。僕も。」

 恭平は言いました。

「僕も、とっても、楽しかった。」

 やがて、街のどこかで、サイレンが鳴り響きました。ハロウィンの終わりです。

 子供達は、好きに家に帰って、自由解散で良いのです。

「送るよ。」

 恭平は言いました。子供はかぶりをふりました。

「迎えが来ているから、良いの。」

 見ると、本当に、車道に、大きな乗用車が、街灯に照らされて停まっています。子供は、一つ恭平に手を振ると、元気良く立ち去って行きました。

 恭平は、籠を持ち直すと、夜道を、他の子供達に入り混じって、家に帰るのでした。

 来年も、こんなハロウィンが過ごせると良いな、くたくたに疲れた彼は、でも、そう考えているのでした。



 次の日。両親は、恭平を病院に連れて行って、検査を受けさせました。

「先生とお話が有りますから、ロビーで本でも読んでいらっしゃい。」

 ロビーで、戦隊物の写真集を見つけた恭平は、お父さんとお母さんが、お医者さんとどんな話をしているか、全く知りませんでした。

 三人は、診察室で、こんな話をしていたのです。

「お父さん。お母さん。喜んで下さい。」

「どうしたのですか、先生?!」

「もしや、息子の、恭平の身に何か・・・。」

 心配そうな両親にお医者さんは、レントゲン写真を指し示しました。恭平の身体を写した物でした。

「この通り、恭平君の肺からは、完全にガン細胞の影が薄れ始めています。」

 思わず、両親は、座っていた椅子から立ち上がりました。

「本当ですか、先生?!」

「本当です。」

 お医者様は、喜ばしげにうなずきました。

 ロビーでおとなしく、本を開いて読んでいた恭平は、お父さんと一緒に来たらしい子供が、童話の本を読んで貰うのを、ふと気に留めました。

「お姫様、可愛いね。パパ。・・・妖精って本当にいるの?」

 子供の質問に、お父さんはすぐさま答えました。事もなげに。

「いるよ。」




              * The End *

拍手

PR

Comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

Trackback

この記事にトラックバックする:

Copyright © FairWinds : All rights reserved

「FairWinds」に掲載されている文章・画像・その他すべての無断転載・無断掲載を禁止します。

TemplateDesign by KARMA7
忍者ブログ [PR]