雷におへそを取られない内に。
空まで夏の色。
茜に染まった空の下。
いついつまででも、帰らない、子供が楽しく遊んでいましたとさ。
面白く面白く、草の間を飛蝗が跳ねるのまでが楽しくて、ころころ、転げまわらんばかりだったとか。
小川のせせらぎが言いました。
『早くお帰り。』
子供は答えました。
「やあだ、よ。」
ヒョウモンチョウが囁きました。
『どうして帰らないの?』
「まだ、遊び足りない。」
子供はうそぶきました。
ヒグラシが、話し掛けます。
『私が鳴いている、と言うことは、もう夕方。』
「ミンミンゼミだって、夜中に鳴いてみせらあ。」
子供は、唇を尖らせて見せました。
風だって、うんざりしたように、ワスレナグサを揺らしました。
やれやれ。そよそよ。
陽はますます、赤く、彼らの影を伸ばしました。
その時です。
『こおら、何故帰らん?!』
頭の上から、轟渡るばかりの大音声。
「ひゃっ!!」
びっくり仰天して、頭の上を見晴るかす。
まあ、山のような、入道雲です。
むくむくと、お寺の大きな力士像のようにいかめしく、地上の子供を見下ろしているのです。
子供は、これは大変、拳固でも喰らっては一大事と、頭を両掌でおさえながら、慌てて、家への帰り道を、一目散に、走って行くのでした。
入道雲は、それを見ては、さも愉快そうに、声を上げて笑うのです。
その声は、歌声のように、野山に、町や村にと響き渡るのでした。
ごろごろと、イカヅチの、歌声が。
* The End *
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