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抜け殻

ある日。鬱蒼とした森に面した我が家の庭。

リュウノヒゲの茂みの上に。

朝露にびっしょり濡れた、奇妙なものを発見。

透明な、きらきら光る、蝉の抜け殻。

およそ、信じがたいものを、拾ってしまった。

宝石で出来ているのか?まさか。
ためすがめつ。
告白する。呼吸が止まりそうになった。

・・・・どうも、そうらしい。。。

絶句。

sigh。。。。

重さが違う。

固さも違う。

なのに。

試しに鼻を寄せてみる。

蝉の抜け殻の匂いだ。

如何すればいいのだろうか?

我が家より続く、森の小道をとっとと歩く。

そう言えば、今は七月だ。始まったばかり。

この森を、虫取りの小学生が駆け回るには、未だ早過ぎる。

途中、友人に会う。僕の家に来る途中だったらしい。

しめた。

彼は、超常現象に詳しい。

聞いて見よう。

新型サイクロトロンには、核融合と分子変換が出来るらしいね。

彼はにべも無く答えた。

でも、こんなに都合良く、宝石が出来るとは聞いていない。

がっかりして、掌の上の抜け殻を落とさないように歩いている。暑い。帽子を被って来て良かった。

そう言えば、掌の上の蝉も熱い。まるで、自ら、光を放っているようだ。

そんな筈は無い。慌てて、抜け殻を見る。

背中が、ぺらりと割れた。僕と友人が固唾を呑んで見守るその眼前で。

中から、雪よりもなお白い透明なまでに真っ白な、一人前のクマゼミが現れた。

抜け殻では無かった。

たった今。羽化したのだ。

翅はためかせて、彼(もしくは彼女)が、ブナの森に消えた後。

何処から現れたのだろう、蝉の大合唱が始まったのだ。

四方八方から降り注ぐ、セミ時雨を浴びながら、僕は言ったものだ。

「一体、今年の夏は、どうなっているんだ?」

「おや、君、解らなかったのかい?」

友人はそんな僕を振り返ると、こともなげに言ったのだ。

「たった今、夏は始まったのだよ。」

と。


             
* The End *

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