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5.The other side of window

壁一面に広がった大きな硝子窓。

 窓の前に座る少女。

 床に拡がる蒼とピンクの花畑。


 少女は、フローリングの床にぺったりと座り込んで外を見る。綺麗な花模様のドレスの裾が、まるで計算されつくしたかのように、床に広がっている。その端から形の良い脚のつま先が見えている。


何を見ているのか。庭を?ひたと見据えた眼差しを決して動かさず、外を見る。

 優れた透明度を誇る高硬質硝子を透かして秋の陽射しと閑静な住宅街に在るこの家に遣って来た季節が見える。
 今は十一月。大きな柿の木に凩が吹き付ける暖房の効いた家は暖かい。太陽の光を一寸だけ借りて来て、家そのものを維持し管理するのに使う、此の技術がこの家の持ち主と少女をも守る。
 でもエネルギー革命も今は昔。近所の子供達は、クリスマスの話をするのにお年玉の話に変換し、凧揚げの話は、フォーミュラ・ジャパンの話に摩り替わる。目配せと暗号の天才達。

  霜が降る庭に、菊も咲く。一杯の小菊。不思議な暖炉の色の菊。小鳥が御互い誘い合って遣って来る。与えられる物など何も無いのに。有っても家の中に唯一人居る少女には、どうして良いのか解らないのに。満腹して帰って行く所を見ると、何か見付けているのだろう。
 朝から晩まで少女は座る。窓の前に。同じ姿勢。同じ視線。唇が動く。歌を歌っているのか。胸が動く。もっと外を良く見たいとでも言った風に。身じろぎする。落ち葉を数えてか。

 そうやって。何日が過ぎたろう。或る日。
 庭付きの此家の門前に乗用車が止まった。
 刹那。少女がその錫色の瞳を玄関に向ける。この三日で初めて。

「ただ今。」

 この家の主人が帰って来た物音がした。彼女は立ち上がり。走る。然程長くも無い廊下を。軽く膝を持ち上げ、ドレスの裾をからげて。唇には微笑みすら浮かんでいる。
 出張から帰って来た此の家の主人は言った。少女を見て。ちょっと慌てた容に。
 「やばい。こいつの電源を切らないで出掛けちまった。」
 ピンクの貝殻めいた耳の後ろに、そっと手を遣る。
「今度から気を付けよう。」
 その瞬間。窓を叩く風の音が、少し大きくなった。

その後・・・・・。



     壁一面に広がった大きな硝子窓。窓の前に座る少女。


     床に拡がる蒼とピンクの、花畑・・・・・・・。

 

* The End *

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