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「コーディー。キャッチボールしよう。」
「はい。マスター。」
「マスターは止せよ。“守(まもる)”って、呼べって言ったろう?」
「はい。マスター。守。」
髪の短い、見るからに俊敏な印象を与える男性型ロボットが歯切れ良く答え、慣れた動作でグラブを左手にはめた。
十を幾つも出ていないと思われる少年が、素早くロボットの数メートル前方で身構え、軟式ボールを放った。小気味良い音を立ててロボットのグラブに、ボールが納まる。ロボットは、ボールを、タイミングを見計らって投げる。守が受けた。
「良いぞ、コーディー。あと、二十回だ。」
「はい。守。」
良く晴れた休日。一戸建て住宅の芝生の庭。一人と一体はキャッチボールをしている。
そこへ。
「お帰りなさい。」
守が両親の姿に眼を輝かせて、声を掛けた。
投げようとしていたコーディーが、瞬時に休めの姿勢を取った。
エスケープ機能が働いて、ニュートラルな状態になる。
父親が、ポロシャツの胸に、何か毛の塊りのようなものを抱いていた。
母親が、それを見ながら、笑って、守にただいまを言った。
「ほら。守。」
ふかふかの毛の塊りを押し付けられたと思ったら、湿った舌に、不意にぺろぺろと舐められた。何が何だか解らずに、
「うわっ。何?」
「コリーの仔犬よ。」
「貰って来たんだよ。可愛いだろう?」
好奇心旺盛な仔犬の瞳が、彼を見上げて、くんと啼いた。
「可愛いね。うちで育てるの?」
「いやなの?仔犬は嫌いだった?」
心配そうな母親の様子に、慌てて首を振る。若い執事のようなコーディーの視線が背中に注がれているような気がして、
「僕、可愛がる。名前は何にする?」
ようやっと。両親は安心して顔を見合わせ微笑みあった。
その夜。
暖炉の側ですやすや眠る、小さなコリー犬を見ながら、両親は話し合った。
「良かったわね。」
「うん。それにしても、コーディーが居るから、犬は要らない、何て、ちょっと、親として我儘勝手だったかな?」
父親は琥珀色のグラスを傾けながら言った。
「もう、コーディーは、家族のようなものなんだし。守もロボットに懐いているし。動物は可愛がるようにプログラミングされているんでしょう?」
「世話は出来ると思うよ。これで両方揃った訳だ。」
その頃。
守の部屋で。布団を蹴飛ばしている守に寝具を掛けて上げた後。
コーディーは。
家の中で、ロボットの居場所(収納場所)と定められているアルコーブに入り。
「ローディング・アウト。」
自ら、電源を切って、瞼を閉じて休むのだった。
その姿は、縦になった冷凍ポッドの中で休むマネキン人形に、例えられなくも無い。
ロボットが、夢を見るかどうかは、誰も知らない。
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