夕暮の田んぼ道。
草笛を吹きながら、男の子が歩いて行く。膝頭をむきだしにして、ただ一人、一心不乱に吹いている。
綺麗な音色のその後を、のっぺらぼうが歩いて行く。唐傘小僧が跳ねている。三つ目小僧が付いて行く。ぬらりひょんが、一反木綿が、山姥が、さとりの化け物が、化け猫が、ぞろぞろ、うろうろ、行列をなして。
妖怪達は、男の子に何もしようとせず、ただ、彼の背後を歩くだけ。
月見草が揺れ、ねこじゃらしが群れる田んぼ道を。
やがて、真っ赤な太陽が心配げに山の端に腰を下ろす頃、男の子は、自分の家に、暖かな灯火へ向けて、飛び込んで行く。
草笛が止んだ。
妖怪達を、完膚なきまでに掻き消したのは、ただ一つの言葉。
「ただ今。」
* The End *
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