勿論、私には、あなたが、何の為に、私を訪れたのか、理解出来ている。
あなたは私に、別れを告げに来たのだ。
笑顔で。
勿論、私には、あなたが私に何を見せてくれているのか、理解する事が出来ている。
あなたがこれから行くのであろう、遥かな星の世界。宇宙の彼方。
星々の地図。それは例えば、暗黒星雲であり、この銀河系と隣接した銀河でもあり、双子と思われるほど似ていると云う、他惑星の砂嵐のチャートでもあり、衛星の岩石の生成表でもあるのだろう。
大きな星の世界を目指す星の船。今、空港に蹲る、大きな大きな鋼の鳥だ。
それに乗り組む人々を、探検隊と呼ぼうが、有人宇宙探査と呼ぼうが、それは勿論、当事者の自由だ。
あなたは、明日、この星系の英雄となり、遥か昔、風を海図を頼りにした男達の後継者となる。。明日あなたは、あの有名な探検行、今では子供すら知っている、冒険譚の主人公となり、また、名も知れぬ、数多の先達者の後継者その人になるのだ。
それでも、私は問いたい。
何故、理解しなければならないのか?
あなたが何処に行くのかを。
何故、納得しなければならないのか?
来週の今頃、あなたはこの、居心地の良い、美しい惑星の上の、何処にもいない事を。
だから。
何処にも行かないで。
此処にいて。
何処にも行かないで。
此処にいて。
私のそばに。
彗星のように、消えて行かないで。
どうか。
明日、あなたの出発を、誰もが祝福し、リボンを投げ、笑顔と歓呼で見送るのだろうに、一人涙に暮れる私は、変なのだろうか。
寂しさの余り、心臓がつぶれる思いをしながら、懸命に笑顔を浮かべる努力をしている私は。
あなたの帰りを待つ間、あなたの夢を見ると、誓いましょう。
どうか、無事で帰ると、私に約束して下さい。
愛する人よ。
二つの太陽の下、三つ目の月灯りが照らすこの大地で、あなたを待っています。
* The End *
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