ぎらつく太陽と、荒れ果てた大地だけが、少年の周囲に在った。
どうして、何時の間に、他の人々と離されて仕舞ったのか。彼には見当も付かない。髪の生え際から顎へと止め処なく汗が伝わる。伝い落ちて行く。
一歩歩く毎、足元の砂地から細かい煙が湧き上がる。暑かった。
「還れたら、絶対、フローズン・ヨーグルトを食べるぞ。」
還る事が出来たら。連想の不吉さに彼は身震いした。酷暑の荒地に居るのにも関わらず。
遠くに揺れる背の高い影は、すると、ナツメヤシだろうか。食べられると思っていたが。いや、いけない。方向を狂わせて仕舞う怖れがある。
喉が渇いた。非常に渇いた。ふらつく足で、彼は歩き続けた。歩かなくては、いけなかった。何より、自分の為に。
頭の上をハゲタカがゆっくりと渡って行く。
彼は恐ろしかった。しかし、歩き続けた。自分を励まして。叱咤して。
程無く、彼の罅割れた唇が、僅かに開いた。
街が見える。此方に向かって来る乗用車。あれは。
「辿り着いた…。」
眼が醒めた時、白衣の男が一人、自分を覗き込んでいた。
男は言った。
「良く頑張ったね。」
少年は言った。身体中を細いチューブや機械に繋がれながら。
「手術は…?」
「成功したよ。おめでとう。」
それは、少年が久し振りに見る、掛け値無しの笑顔だった。
やがて。
一人の看護婦が集中治療室から出て来た。少年の両親が長椅子から立ち上がって、長患いの息子の代わりに、彼女の両手を握り締めた。
今夜、少年が見る夢は、カナンで見るに相応しい夢だろう。
* The End *
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