今日も、寒風が窓を叩く。
我が物顔に、木枯らしが空を翔る、二月初めの、午前中。
こそとも音がせぬ、平日の図書館の中。
私は、資料に使う、書籍を探していた。液晶画面の前から身を起こして、改めて開架書棚へと向かう。メモを片手に。
最近また、リニューアルした感の強い、検索用PCが、頼もしい利用者の味方として市民権を自律的に勝ち得る中、図書館の建造物そのものは未だ、昔の市庁舎を改造したものと、初めて此処を訪れる人にも解る状況を留めている。
書籍が何百何千と並べば、書籍が何百何千と並んだ場所特有の匂いがする。その中を縫うように、木造建築物の匂い。
閲覧用のテーブル、椅子の群れの中心に、大きなストーブ。薬缶はしゅんしゅんと湯気を盛んに吐く。
何と言うか、和洋折衷と言うより、昔と今が段だら染めになって混合した場所も有ったものだが、子供の頃から利用していれば、愛着が湧いて来るもので、改築の噂が少し気になったりもする。
蝋梅の匂いがした。蝋梅の花には強い芳香が有る。特徴的で他の匂いとは直ぐに区別が付く。
陽だまりの中を見回す。斜めストライプで差し込む日差しの中では埃が僅かに舞うだけで、窓の外には、寒椿の姿も見えぬ。
蝋梅の匂いがするコロンなど、日本の何処かで製造されて、販売されていたろうか?記憶を辿る限り、思い当たる事など無い。
はて、変わった事だと思って。メモを手に手に、もう一度、整理番号を辿って見る。
目当ての本が見付かった時に、私は目を見張る。
思ったより、保存の良い状態で、利用者を今や遅しと待ち構えていたその姿と、きちんと立てられた白いページの上に乗った、まるで、浅黄色の臘細工。
何処から入って来たのか、窓を閉め切った図書館の中で、ふくいくと強い匂いを放つ。
すっかり開いた蝋梅の花が、一揃い。花冠のように、乗っていた。
* The End *
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