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”止められなかったのか?”
傍らの相棒の言葉を、彼は、ぼんやり、聞いていた。
『止められなかったのか、おい?!』
もし、止めることが出来たなら。ああ。
彼は、周囲に広がる、瓦礫と塵灰の渦と化した、廃墟をぼんやりと眺めていた。空は、真昼にも関わらず、暗い。どんよりとした、重い雲が垂れ込めている。
あの、通り。あの町並みは、少年の頃、ロリポップをなめなめ、走り回った通りだったのかも知れない。
いや、違うかも。似ていると思い込んでいたのかも。
それにしても、何処かで無事でいると信じたい。昔、良く知っていた人達も、・・・・シンシアも。金髪のシンシア。
シンシアのお陰で、彼の少年時代は輝いた。彼女が彼の太陽であり、微笑であり、日々の糧でもあったのだ。
きりきりと差し込む、胸の痛みをよそに、想い出は甘やかであった。
もしも。止める事が、彼に、彼らに、彼らの政府に、出来たなら。
あの、システムを止める方法は、唯一つ、街ごと、彼らの国の、もっとも美しいといわれた都市を丸ごと、その歴史ごと、葬り去る他無い、と判断したのは、確かに、苦渋の選択であったと言えよう。しかし。
その、システムの破壊を、事実上の、物理的な破壊を、彼に任せたのは、いかなる基準の判断であったものか。
彼に、故郷の街に対して、引き金を引かせたものは、果たして、何者であったのだろうか。
重苦しい空の下、薄い、ひらひらとしたものが、風に舞った。元は、絵本の表紙であったかも知れないそれを、あえて彼らは、見まいとした。
そして、なかなか、その場から、立ち去ろうとしなかった。
天の神よ。
何故、『自動報復装置』を、途中でキャンセルする機械とそのシステムを、我らにお与えになられなかったのですか?
* The End *
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