晴れやかに空が晴れ渡ったその日。
門前に、就学前の年齢と明らかに解る子供が、一人で、身体に不釣合いなまでに大きな、ボストンバッグを提げて立っていた。発見したのは、前日に立てておいた鯉幟を、確認しに現れた、厨房管理の女性。
あらかじめ、言い含められていたのか、無言で、封筒を、施設の責任者に、手渡したのだった。
“この子を頼みます。…探さないで下さい。母より”
「と言ったってねえ。」
事情が在って両親と暮らせない子供を預かる施設で。職員達は無心に他の子供達と遊ぶ、まだ五つになったばかりの男の子を気の毒そうに見詰めた。
はきはきと利口そうな処がまた哀れだと女性職員の中には涙ぐむ者も居る。
子供は仲良くなった相手と楽しげに画用紙を大きな机の上に広げ始め、熱心にクレヨンで、形を取り始めた。稚拙ながら愛情を込めたその態度に、
「それは、何あに?」
質問をすると、彼は可愛い口で、はっきりとこう答えた。
「お母さん。」
それがまた涙をそそるのであった。
「坊や!!」
職員の中には、迎えに来た母親を烈火の勢いで叱り付ける者も居た。
「離婚して、どうして良いか…。」
大人達が代わる代わる慰めたり励ましたりするのを尻目に、肝心の子供は新しい画用紙にクレヨンで何かを描いていた。
「それは、何あに?」
と、たずねると、即座に、
「お父さん。」
子供は可愛い唇で、利発に答えるのだった。
* The End *
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