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楽しいXmas、賑やかなパーティが終わって、数日が過ぎ去った。
僕は、遠くの街に引っ越した友達を思って、一人、夜道を歩いていた。
左右は、田畑が一面に続き、僕が後にして来た家々の明かり。僕の家が、その中に有る。それらと、僕が歩く一本道の彼方に広がる、同じ様な住宅街の明かりは、頭上に広がる真鍮色の星空よりも、何故かずっと、寒そうに見えたのだった。
僕は、彼が、同い年の友達が好きだった。
手紙や電話では、どの程度、彼と僕の距離が縮められるのだろう。新しいCDの話より、音楽の授業で、パンフルートの音を初めて聞いた話がしたいのに、もう、彼とは滅多に会えはしないのだ。
ケルトの音楽は、小鳥の歌を真似したようだと言いたいのに、彼は、Jカップの話をしたがるかも知れない。
息が白い。首に巻いた母の手編みのマフラーに、僕の乾いた吐息が沁み込む。
歩きながら、白い息で凍えかけた指を暖めたその時、直ぐ近くに灯りが灯ったのだった。
思わず立ち止まって、頭を巡らせると、確かに灯りが動くのが見えた。
田圃の真ん中に、焚き火が見えた。
燃え上がる、天を焦がさん勢いに燃え上がる焚き火。どきどきする刃物にも似た、温かなオレンジ色。僕の胸の鼓動すら高まって来た。
誰かが、火の傍にいる。影が見える、ちらちら動く影が。何かをくべて燃しているのだ。木の枝か何かだろうか。この匂いからすると、そうかも知れない。
いつしか、僕は、草が倒れ伏した土手を滑り降りていた。どんな人が、この焚き火を燃しているのか、知りたくなったのだ。
凍て付いた黒い土の田圃を苦労しながら、通り抜けていくと、思ったより早く、焚き火の傍に辿り着いた。ぱちぱちと、細い木々は勢い良くはぜて、気持ちの良い位、暖かい焚き火の傍に。僕は、すっかり、嬉しくなった。世界は今、オレンジ色だ。
しかし。傍らに確かに立って動いていた筈の、黒いコートに、帽子の人影が無い。
「あれ?!」
僕は、慌てて、左右を見回した。・・・何たって、無許可で焚き火に当たっては、悪いのでは無いか。当然、此処は、一言、御挨拶をしなくてはならないだろう。
「よっこいせっ。」
「うわっ。」
いきなり、背後で上がった、大きく野太い声に、僕は思わず、総毛だって悲鳴を上げた。
「おお、坊や、ごめんごめん。」
白い髭のお爺さんが、僕を見て、何かを手に抱えながら、にこにこと、目を細めて笑っていた。
「あ、いや、こちらこそ、すっかり、当たらせて貰いまして。」
僕は、慌てて、火の傍を空けた。当然、この火は、彼の物だからだ。そうしている間に、僕の凍り付きかけていた血液は、もう一度甦って、身体中を経巡りだしたようにも思えた。
「ああ、いや、構わんよ、どうぞどうぞ、当たって温まって行って下さい。」
優しい口調で話す彼は、黒い厚手のコートに、同じ色の丸い帽子を被っていた。
僕は、ほっとすると共に、彼が両手で大事そうに持っている物に、大いに興味を抱いた。
「あの、それは?!」
「おお、これかね。」
そう言って、彼は、優しい眼でそれを見て、もう一回僕を見て、上級生が下級生にするように、秘密めかして、悪戯っぽく、微笑んだ。
「もう、枯れているから、大丈夫だよ。燃やしても良いんだ。」
「木の切り株ですか?!」
「うん。切り株だよ。先刻、其処の地面から、掘り出して来た所さ。」
「へえ・・・・。」
何だかとても珍しい物を見る気がして、僕は、彼に近寄って、そっと木の表面を撫でて見た。ごつごつとして、氷の様に冷たかった。
「枯れているんですね。」
「これはねえ、坊や、今年一年の木なんだよ。」
「え?!」
「来年はもっと、大きく育つさ、きっとね。」
言い終えて彼は、何処からそんな物を出して来たのだろう、大きな鉈を取り出して、切り株を、僕に気を使いながら打ち割って、次々に木切れを火にくべたのだった。枯れた木が燃え上がる良い匂いに、僕は陶然となった。
「燃え終わるまでに願い事を言って御覧、坊や。・・・・君の願い事は、何だね?!」
「え、と・・・。友達に贈り物がしたいです。」
「そうか。では、上を見て。」
僕はその通りにして、そして、びっくりして其処に立ち尽くした。星空一杯に、僕の願い事が描かれている。僕は言った。嬉しさに、頬が燃え上がるのを感じながら。
「有難う御座います。」
「うんうん。では、あれで良いのだね。」
彼は優しく、うなずいて言ったのだった。
遠くの街に居る友達の事を、窓の外に広がる夜景を見る毎思うのだ。
新しい生活は、途惑う事の連続だが、或る日、もっと、仰天した事がある。
誰が贈ってくれたのだろう。窓の外に、僕の好きな花。
今咲き初めたばかりの雪椿の花束。
心当たりを探しながら、頭を巡らすと、空から風花。
僕は、花が凍り付かないように、慌てて、花束を、抱えて、家に戻ったのだった。
何処か懐かしい匂いを胸一杯に吸い込みながら。
* The End *
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