[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
見ているだけで、楽しくなりそうな、この季節にお似合いの明るい色の花柄小紋。名古屋帯を締めて、春色の女性が、野点傘の下に品良く座っていた。
彼女の周りは、回遊式の庭園。風に乗って、満開の桜が良い匂いを伝えて来る。
わいわいと行き交う人々が、思い思いに楽しむ中を、この宴の主催者並びに関係者はやきもきと、主賓を待っている。
ただの観桜会では無かった。新しい都市計画に関する計画書が市議会を通過した祝いの席でもある。肝心のジェネラル・プロデューサーである所の設計責任者が姿を見せないのでは済まされない。
コンパニオンまでが埒も無い不安に駆られて右往左往する中を、件の女性は微笑を浮かべて座っていた。
そんな彼女を見て、助役が一言、議員の一人に言ったものだ。
「やはり、ロボットにも住む場所を振るようにと指示したのが行けなかったのでしょうか?」
議員が首を振りながら、反論しようとした刹那、受付の方で、声が上がった。
設計家が到着したのだった。
「いや、リニアに乗るホームの場所を間違えてしまって。。。」
駆け付け三杯とばかりに甘酒を勧める出席者達の前で、彼は頭をかいて見せた。
早速、主賓の前で、今日のメイン・イベントが執り行われる。 すらり。と。
その時初めて、着物の女性型アンドロイド・ロボットが立ち上がった。
懐から、巻紙を取り出し、広げる。
文字通り玉を振る声が、その喉から、零れ落ち始めた。
『春は、曙。やうやう白くなりゆく…。』
ロボットによる、清少納言《枕草子》の朗読が流れる。
どこからか、鶯の啼く声が、席上に落ちて来た。宴は始まったばかりであった。
≪ ダンス・パートナー | | HOME | | 3.Fair Wind ≫ |