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『春のうららの隅田川・・・・。』
おや?僕は耳を済ませた。
どこか。直ぐ近くから、歌が聞こえる。いや、歌と言うには、音階が軽快過ぎ、また、歌詞も良く聞き取れない。しばし考えてから、
「何だ。鼻歌か。」
僕は、読んでいた本から顔を上げてまで考え込んだ自分がつい悔しくなって、わざとソファに寝転がった。
ごろん。と言う音が台所からした。ローダが心配そうに、僕を見ていた。
心配そうに。有り得ないか。ローダはロボットだ。
「なんでもない。…あれ ?!
音が止んでいる。
「ローダ。お前か?鼻歌を歌っていたのは?」
「はい。マスター。」
「ふうん。なあんだ。」
良い天気だ。小鳥も啼いている。最近。空気も高く澄んで来たようだ。…ロボットにだって良い所は有るじゃないか。
いや。待てよ。
僕は座り直す。
ロボットだって、精密機械の塊りには違いない。
稼動音を、鼻歌と聞き間違えることだって、有り得る事なのではないのだろうか。
腑に落ちて、僕はソファの背もたれに体重を寄せ、読書に戻った。。
「解った。お昼はまだか?」
「あと、五分五十秒で準備は出来上がります。マスター。」
「解った。もう良い。作業に戻れ。」
「はい。マスター。」
心なし、対面キッチンの向こうに戻った背中が、嬉しそうに見えたのは、僕の気のせいだろう。
街のあちこちに、ロボットが発信源と思われる、歌や器楽演奏が響き始めたのは、その後、数日してからの事だった。
* The End *
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