満開の桜の下で夢幻の如くに、佇む佳人。
これを見つけて近付いて、願い事を告げると、良く叶うとか。
…そんな伝説、信じはしなかったが。
夜桜の公園。桜の着物姿の古風な美人を見た途端、考えが変わる。
「本当に、あなたが?」
こちらを振り返った瞳。その、冷たさと倦怠感にぞっとする。
「何?」
思いの他、豊かな声で。
「願い事を叶えて下さい。一つだけでも。」
彼女は表情も変えず詰まらなさそうに、
「私にだって、願い事が有る。」
「それは、何です?」
桜吹雪がざっと散り、我に返れば、夜闇の中には誰もいない。
自分の身体が鉛の様だと気付く。動かぬ。
どこからか、くすくすと笑い声が、聞こえて来た。
さては、計られたかと悟るが、もう遅い。
* The End *
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