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煙草を吸う機会が、日常生活の中で、結構多い。
何かを回数多く、行う事。日々の積み重ね。
それが、日常生活ってもんさ。
日に煙草一箱と決めている。ヘビー・スモーカー?
とんでもない。
「身体に悪いぞ。」
友達が言う。気持ちは解る。言っている意味も解る。やめられない。
「あれ?また来た。」
大きな、日に透ける薄い羽根の蝶々。ピンクのワンポイントが綺麗だ。
窓際に僕の机が位置しているせいか、社屋が林の中に位置しているせいか、ちょくちょく、来る。・・・待てよ、蝶の道ってものが有るそうだな。此処の会社はまだ新しい。そうか。
ひらひらと、僕の周りを一周して、来た窓から、また出て行く。長閑な風景。ナラ林の緑が目にしみる。
「また来た。」
これで一週間目。毎日やって来る。嫌な奴ならともかく、大きなアゲハチョウじゃ、どうしようもない。でも、僕が、仕事が一段落して、やれやれと煙草を吸おうとしたら、マールボロ、僕の好きな銘柄の煙草を吸おうとした時に限ってやって来るのは、僕の気のせいか?
「おいおい、これじゃ、火も点けられないよ。」
蝶は、僕の都合なぞお構いなし。毎日の習慣を、きっちり守って出て行く。呆然とした僕を尻目に、丁度、僕の机の電話が鳴った。
やれやれ、だ。
季節は巡り、秋になり、寒くなる。
あの蝶は、姿を見せなくなった。ほっとした。
そう、ほっとしたんだ。僕は。
思い切り、誰に見咎められることも無く、これで煙草が吸える。
課長が僕に、灰皿は何処だと聞いた。
何処だったろう?
「会議で使うんだよ。足りないんだ。ああ。有った。」
寒い時期に、会社は大車輪。仕事が無いより、ずっと良い。
ビッグ・ニュース。ビッグ・チャンスが僕に訪れた。
南米の工場に、連絡役として派遣。一年間。
帰って来れば、企画営業に、僕の椅子を設けてくれる事になった。やるぞ。
「時に君、持病は?」
「有りません。」
僕は元気に答えた。
「煙草やお酒は日本の物が向こうに売られているそうですわ。」
長い髪を、しっかり頭の後ろに纏め上げた、秘書課の女性が言った。ピンクの薄いバレッタで髪を止めている。
「ああ、忘れていた。秘書課の彼女も通訳兼サポート役として同行する事になった。よろしくしてやってくれ。」
僕は頷いた。二三回、頷くのが多かったかも知れない。
「よろしく。」
何処かで見た事の有るような気がする、彼女は微笑んだ。夏のナラ林の匂いがした。
結論として、僕は減煙することになりそうであった。
それも、自分から喜んで。
* The End *
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