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桜、一枚

IMG_0002.JPG

高い空に花弁が舞い、

この街には、誰もいない。


緋色の花弁が空を覆う。

春真っ盛りの街。

三々五々、人々が集まり、休日には子供連れで込み合う、広場。焼きそばやフランクフルトソーセージの匂いが漂う。食べ物の匂いすらが春らしく華やかだ。

空をつんざくばかりに吹き上げる噴水、明るい色のコートが良く似合う。
石造りの噴水の縁に腰を下ろした、若い女性が、時計を気にしている。
(三年後の今日、此処で会おうねって言ったのに・・・。)
もう一度、歩行者天国の向こうを、首を伸ばして見る。
誰も、流れる人々の流れの中には、知った顔は無い。

彼も、そして、あの人も。

もう、三十分が過ぎた。

(来ないのかな。電話位、くれると良いのに。)

彼女が携帯電話の番号を変えて、一年になる。度重なる、悪戯メールや悪質な悪戯電話に、辟易しての事。変える前に、二人には連絡した筈だった。

(でも、一人は留守電に入れただけだし。)

学校の運動場。傍らの並木道。いつも、四季を通して何かの花が咲いていた。

語り合い、ふざけ合いながら、歩いた。当たり前のように。

四十五分が経過した。

彼女は立ち上がった。何処に足を向けるか、一瞬迷ったが、半年前に見つけた、本屋の二階に有る、隠れ家的な、喫茶店に行く事にした。

早く温かなコーヒーが飲みたかった。
(うーんと、奮発して、ブルマン。)

わざとブーツの踵を蹴立てて、音を出しながら、歩く。
そうすると、元気が出て来るような気がするのだ。
まだ、風は冷たかった。花冷えと言うのだろうか。

彼女が立ち去った後に、一枚、何かの間違いであるかのように、桜の花弁が、ちょうど、彼女の座っていた辺りに、舞い降りた。

何かの忘れ物、あるいは、メッセージ・カードであるかのように、行儀良く。
噴水の狭い縁に、着陸したのであった。

                                                                                   

                                              * The End *

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