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汝、偽る事無かれ

二人は、噴水の水面を見つめて、佇んでいた。
傍目には、仲の良い、異性の友人同士と見えたろう。
いや、実際、その通りなのだが。それに間違いないのだが。

私の隣で、噴水の水面に映った姿には、二枚の七色に輝く翅が有った。
私の姿形は、いつもと全く変わらない(少し、進歩が有れば良いのに。)。

背筋も凍る瞬間の後、私は、傍らのガール・フレンドを、恐る恐る振り向いた。

ラケルは、いつもの通り、私に、どじでチビで、冴えない私に、輝く笑顔を投げ掛けてくれた。

だが。

「ウィリス。」

私の名前を呼ぶその声は、少しばかり、震えていた。

「な、何だい?ラケル?」

「私が、怖くない?」

「怖い?君が?!」

意外なその単語に、私は却って凍り付いた。
いつもの公園。頭の上を、鳩が飛ぶ。
噴水を見下ろす彫刻に、その内の数羽が降り立ち、羽を休めている。
怖い?私が、ラケルを怖がる。
考えられない。

「私の事を、“レイチェル”では無く、『ラケル』と呼ぶのは、あなた位だわ。」

「君は、それを、気に入ってくれた。」

嘘では無い。私は、『ラケル』の方が、通りが良いし、響きが綺麗だと思ったのだ。

「私も、その呼び名が、好きよ。」

「あ、有難う。改まって言われるほどの事じゃ、いや、その。」

度肝を抜かれる。彼女は、泣いていた。少なくとも、妖精の涙が、真珠になると言うのは、あれは、嘘だ。
魔法の力は、比べものにならないが。

ベンチに座って、晴れた公園の空を眺める。

「この公園を選ぶのでは無かったわ。あの噴水は、古い泉の跡に造られた物。」
「魔法の力が有ると?」

僕は、仕方なく聞いた。

「ええ。ウィリス。」

「ねえ。ラケル。忘れるよ。」

「何を?」

ラケルは詰め寄った。

「何を?ウィリス?」

その足元で、鳩が餌を啄ばんでいた。


その日以来、私の役目は、少しばかり、複雑になった。

彼女のナイト役は勿論(そう言えば、彼女は私の何処が気に入ってくれたのだろう?)、彼女の言って見れば、スポークスマンを買って出てしまったのだ。

彼女が妖精?

勿論。凄い美人だろう?

その上、気立ても良い。料理が好きで家庭的だ。因みに、ラケルの夢は、テキスタイルで身を立てることだ。
現在、デザイン学校で、懸命に勉強している。人間界は、それはそれは、向学に燃える向きに取っては、素晴らしい世界らしい。

ぽつぽつと、そこまでを彼女は、語ってくれた。

現金な事に、その日、僕らは、これまでで一番、長く、熱心に語り合ったのだ。

彼女が妖精?
どうして、そう思ったんだい?

普通は、其処で、この話題はストップ。

妖精の世界にも、魔法使いはいるのだ。

余程、特殊な場所でも無ければ、ばれるものではない。
あの、噴水は、それこそ、例外中の例外。人間達でさえ、古過ぎて忘れていた、古代の遺跡の跡。

不思議なことに、僕は段々、お陰で株を上げているらしい。

いやはや。

女性の涙の効果は、素晴らしい。

人間でも。妖精でも。



            * The End *

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